名古屋地方裁判所 平成7年(ワ)2271号 判決 1998年4月15日
愛知県海部郡十四山村鮫ケ地三丁目七三番地
原告
株式会社東洋工機
右代表者代表取締役
長倉正受
右訴訟代理人弁護士
山上和則
同右
西山宏昭
右補佐人弁理士
鈴木由充
神奈川県伊勢原市石田二〇〇番地
被告
株式会社アマダ
右代表者代表取締役
上田信之
右訴訟代理人弁護士
高村一木
同右
野上邦五郎
同右
杉本進介
同右
冨永博之
右補佐弁理士
三好秀和
同右
岩崎幸邦
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求の趣旨
一 被告は、別紙物件目録記載のプレスブレーキを製造、譲渡してはならない。
二 被告は、その占有する別紙物件目録記載のプレスブレーキを廃棄せよ。
三 被告は、原告に対し、金二億九四二二万三九五八円およびこれに対する平成七年六月二二日から支払済まで年五分の割合の金員を支払え。
四 訴訟費用は被告の負担とする。
第二 事案の概要
(事案の概要)
本件は、プレスブレーキに関し特許権を有する原告が、被告の製造・販売するプレスブレーキが原告の特許権を侵害するとして、その製造等の差止め、製造物の廃棄及び損害賠償を求めた事案である。
なお、プレスブレーキとは、下型上にセットされた被加工板材を、上型と下型との間で加圧し下型のV字溝内に押し込んで、所望の角度だけ折り曲げるという機械である。そして、本件で問題となった原告の特許権は、機械本体の両側位置に往復動機構を備えた構造のプレスブレーキにおいて、機械中心に対して一側へ偏った状態で被加工板材がセットされて曲げ加工が行われる場合に、両側位置での異なる変形量の誤差を補正し、被加工板材の全長にわたり適正な曲げ角度を得ることを目的としている。
(争いのない事実等)
一 原告の権利
1 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)を有する。
(一) 出願日 昭和六二年五月二六日(特願昭六二-一二八七五九号)
(二) 発明の名称 プレスブレーキ
(三) 出願公告日 平成三年八月一六日(特公平三-五四〇一三号)
(四) 登録日 平成六年一〇月七日(特許第一八七七二四六号)
2 本件特許権の特許請求の範囲
両側位置に設けられた一対の往復動機構により型を移行させ、上型と下型との間で加圧力を作用させることにより、被加工板材を型の移行距離の目標値に応じた曲げ角度だけ折り曲げるプレスブレーキであって、各往復動機構に連繋されて各往復動機構の動作量により両側位置での型の移行距離を個別に検出する一対の距離検出手段と、前記型の被加工板材に対する加圧力を両側の往復動機構の各位置で個別に検出する一対の加圧力検出手段と、上型と下型とを直接当接させて加圧したときの加圧力と型の移行距離とから求めた変形補正係数と、被加工板材に対する加圧時の各加圧力検出手段による検出値とに基づき距離補正値を求めて各距離補正値を前記型の移行距離の目標値に加算する補正演算を実行する演算手段と、この演算手段が算出した両側位置で移行距離の目標値に基づき各往復動機構の動作量を制御して被加工板材の全長にわたる適正な曲げ角度を得る作動制御手段とを具備して成るプレスブレーキ。
二 特許請求の範囲の分説
A 両側位置に設けられた一対の往復動機構により型を移行させ、上型と下型との間で加圧力を作用させることにより、被加工板材を型の移行距離の目標値に応じた曲げ角度だけ折り曲げるプレスブレーキであってB 各往復動機構に連繋されて各往復動機構の動作量により両側位置での型の移行距離を個別に検出する一対の距離検出手段と
C 前記型の被加工板材に対する加圧力を両側の往復動機構の各位置で個別に検出する一対の加圧力検出手段と
D 上型と下型とを直接当接させて加圧したときの加圧力と型の移行距離とから求めた変形補正係数と、被加工板材に対する加圧時の各加圧力検出手段による検出値とに基づき距離補正値を求めて各距離補正値を前記型の移行距離の目標値に加算する補正演算を実行する演算手段と
E この演算手段が算出した両側位置で移行距離の目標値に基づき各往復動機構の動作量を制御して被加工板材の全長にわたる適正な曲げ角度を得る作動制御手段とを具備して成るプレスブレーキ
三1 原告は、被告が、別紙物件目録記載の物件(以下「イ号物件」という。)を製造・販売していると主張している。
被告は、その特定方法を争い、イ号物件は別紙被告主張目録記載のとおりであると主張する。
しかし、右争いは、主としてイ号物件がクラウニング・サブシリンダにより上下テーブルのたわみによる誤差を補正していることを他の誤差要因による補正と別個に捉えるか(原告の主張)、一体として捉えるか(被告の主張)の表現上の差異にすぎず、証拠(甲四、乙二の一と二)と弁論の全趣旨によると、イ号物件は、別紙図面1ないし3記載のとおりであって、少なくとも次の構成を有するものでおると認められる。
(一) 各往復動機構108A、108Bは下型104を下部テーブル103と一体に往復動作させる。上昇時、被加工板材Wにして上型106の加圧力が作用し、被加工板材下型の溝107内に押し込まれて折り曲げられる。
(二) 下型テーブル付近両側には上下テーブルのたわみによる誤差を補正する一対のクラウニング・サブシリンダ機構124A、124Bが設けられている。
(三) 左右の各往復動機構に連繋されて、各往復動機構の動作量によりプレスブレーキの両側位置での下型の移行距離を個別に検出する一対の距離検出器109A、109Bを有している。
(四) 上型と下型の間で被加工板材に作用する加圧力を左右の往復動機構の各位置で個別に検出する一対の加圧力検出器117A、117Bを有している。
(五) 被加工板材を曲げ加工する場合に、マイクロコンピュータ124で誤差の補正演算が行われるが、データメモリ116には、以下の各誤差の補正式の定数が記憶されている。
(1) 上下テーブルのたわみによる誤差δ1の補正式の定数
なお、右誤差の補正は、クラウニング・サブシリンダに加圧力を加えて下部テーブル中央を上方にたわませることにより行われている。
(2) 上限バルブの開度特性による誤差δ2の補正式の定数
加圧力と上限バルブの開度特性による誤差との関係、すなわち上限バルブの開度特性による誤差の補正式の定数。右定数は、上下テーブル間に鋼鉄製の加圧台を入れ、下部テーブルの移行距離の設定値を変えつつ加圧して、上限バルブの開度を計測することより求められている。
(3) 側板たわみによる誤差δ3の補正式の定数jL、jR
加圧力と側板たわみによる誤差との関係、すなわち側板たわみによる誤差の補正式は、
δ3L=jL×PL(jLは定数、PLは機械左端にある往復動機構における加圧力)
δ3R=jR×PR(jRは定数、PRは機械右端にある往復動機構における加圧力)
と表されるが、右式の定数jL、jRは、上部テーブルに取り付けた中間板と下部テーブルとの間にセットした加圧台を、加圧力を変化させつつ加圧しで、左右の往復動機構の加圧力に対する左右の側板たわみを、プレスブレーキから離れた地点に設置されたダイヤルゲージにより、計測し、加圧力と左右の側板たわみとの関係を求めることにより求められている(別紙図面4参照)。
(4) 金型たわみによる誤差δ4の補正式の定数K
加圧力と金型たわみによる誤差との関係、すなわち金型たわみによる誤差の補正式は、
δ4=K×P/L(Kは定数、PはLとPRの和、Lは被加工板材の長さ)
と表されるが、右式の定数Kは、FEM(有限要素法)解析画面上で、一メートルの長さの上型が実際に機械に装着されているのと同等な拘束状態を設定して、上型の先端部に、下方向から加圧力を変化させつつ加圧して、上型の先端部の垂直方向のたわみをコンピュータで計算することにより求められている(別紙図面5参照)。
(六) CPU114は、プログラムメモリ115に格納されたプログラムに従ってデータメモリ116に対するデータの読み書きを行い、各制御機構118A、118B、各加圧力検出器、各距離検出器等に対する入出力を制御して、所定の演算及び処理を実行する。
(七) マイクロコンピユータが算出したプレスブレーキの両側位置での下型の移行距離の補正値とクラウニング・サブシリンダの補正値により各往復動機構の動作量を制御して被加工板材の全長にわたって適正な曲げ角度を得る作動制御手段を有している。ただし、各往復動機構は、各制御機構118A、118Bにより動作が制御され、クラウニング・サブシリンダ機構は、右各制御機構とは別の油圧制御機構により動作が制御される。
(八) イ号物件の具体的補正方法
(1) 第一回曲げ加工の際行われる誤差の補正ついて
<1> クラウニング・サブシリンダによりδ1の補正を行う。
<2>(イ) 被加工板材を目標曲げ角度θ0に曲げるための計算加圧力PO、POL、PORを算出する(POL=機械左端にある往復動機構における計算加圧力POR=機械右端にある往復動機構における計算加圧力、PO=POL+POR)。
(ロ) δ2、δ3の補正式に計算加圧力POL、PORを代入して、補正値δ2L、δ2R、δ3L、δ3Rを、δ4の補正式にPO、Lを代入して補正値δ4を求める。
(ハ) 以下の式により、左右端の型の移行距離の誤差を求める。
⊿dL=δ2L+δ3L+δ4
⊿dR=δ2R+δ3R+δ4
(ニ) 幾何学的に求められ被加工板材を目標曲げ角度θ0に曲げるための型の移行距離(又は目標刃間距離)に右⊿dL、⊿dRをそれぞれ加算する。
(2) 第二回曲げ加工について(一回目でθ0にならなかった場合)
<1> クラウニング・サブシリンダによりδ1の補正を行う。
<2>(イ) 一回目の実測加圧力PL(1)、PR(1)等を、加圧力の予測値の式に代入して、被加工板材を目標曲げ角度θ0に曲げるための加圧力予測値P(2)、PL(2)、PR(2)を求める。
(ロ) 加圧力予測値P(2)、PL(2)、PR(2)を用、(1)(ロ)と同様に各誤差補正値を求め、(1)(ハ)のと同様に左右端の型の移行距離の誤差を求める。
(ハ) 右誤差と一回目の誤差との差を補正する。
(3) 第三回目以降の曲げ加工が必要な場合には、(2)に準じて行われる。
2 イ号物件の構成(三)は構成要件Bを充足し、同(四)は構成要件Cを充足している。
(争点)
一 構成要件A該当性
二 構成要件D該当性
三 構成要件E該当性
(争点に対する当事者の主張)
一 争点一(構成要件A該当性)について
(原告の主張)
1 別紙物件目録1(一)記載のとおり、イ号物件は、「両側位置に設けられた一対の往復動機構108A、108Bにより下型104を移行させ、上型106と下型104との間で加圧力を作用させることにより、被加工板材Wを下型104の移行距離の目標値に応じた曲げ角度θ0だけ折り曲げるプレスブレーキ」という構成を具備している。
2 イ号物件では、上下テーブルのたわみによる誤差を補正するためのクラウニング・サブシリンダ機構124A、124Bが一個ずつ設けられている。
しかしながら、本件発明の明細書では、適正なクラウニング補正が行われているか、上下テーブルが剛体でできているかのような前提で実施例の説明がなされていることからも分かるように、本件発明は、中ダレ現象による上下テーブルのたわみ誤差の補正は問題としていないのである。なお、このよ.うな説明形態は、技術文献では一般に許容されている。なぜならば、もし目的とする技術上に重ね合わされる種々の技術について、それぞれ言及することが必要であるとすれば、明細書は膨大なものとなり、かえって目的とする技術の内容が分りにくくなるからである。
したがって、イ号物件が、上下テーブルのたわみによる誤差を補正する手段として、クラウニング・サブシリンダ機構を備えていることにより、本件特許を侵害しなくなるものではない。
3 イ号物件では、第一回の曲げ加工に先立ち、所望の折り曲げ角度θ0に曲げる際の条件により算出した各往復動機構の演算加圧力を用いて誤差δ2L、δ2R、δ3L、δ3R、δ4を算出し、右各誤差の合計値⊿dL、⊿dRを幾何学的に求められる被加工板材を目標曲げ角度θ0に曲げるための型の移行距離に加算し移行距離の目標値を算出している。
ところが、特許請求の範囲には、初期目標値をどのような要素を考慮して、どのように算出するかについては、なんら限定がない。イ号物件のように、誤差を考慮した演算を実行して初期目標値を求めたとしても、下型104の移行距離の目標値が「型の移行距離の目標値」であることに変わりはない。
したがって、イ号物件は、構成要件Aの構成を具備している。
(被告の主張)
1 構成要件Aの明文上、「型の移行距離」というのはプレスブレーキの左右端の往復動機構により移行した距離を意味している。したがって、本件発明のプレスブレーキは、被加工板材の折り曲げ加工を、プレスブレーキの左右端の往復動機構による型の移行距離だけで行うのである。
イ号物件は、クラウニング・サブシリンダを有していて、型の移行距離とともに、クラウニング・サブシリンダの作用とによって被加工板材を曲げ加工するものである。
2 構成要件Aの「型の移行距離の目標値」というのは、機械の変形量の補正をしていない型の移行距離のことである。
しかし、イ号物件の第一回の曲げ加工における型の移行距離は、誤差要因ごとの誤差を計算加圧力から求めて、それを補正しているものであるから、「型の移行距離の目標値」には該当しない。
3 したがって、イ号物件は、構成要件Aを具備していない。
二 争点二(構成要件D該当性)について
(原告の主張)
1 「変形補正係数」の意義
(一) 先行技術(特開昭五四-一二九五七三号)と比較すれば、「上型と下型とを直接当接させて加圧したときの加圧力と型の移行距離とから求めた変形補正係数」の技術的意義は、「プレスブレーキにおいて加圧力を作用させ、その加圧力の変化に従って、移行距離の誤差がどのように変化するかを観察することにより、加圧力と誤差との関係を表す変形補正係数を求める。」というものであることがわかる。
なお、原告が本件特許の拒絶理由通知に対する意見書において主張していることは、引用例と本件発明とでは、補正する誤差の範囲に違いがあるということであり、変形補正係数を一括して求めるということは主張していない。
(二) また、本件発明がどのような長さの金型に対しても適用できることはいうまでもないから、左右で異なる変形補正係数が得られることはありうる。
2 イ号物件との対比
(一) 別紙物件目録4(一)記載のとおり、イ号物件は、「予め求めた誤差の補正式の係数と、被加工板材Wに対する加圧時の各加圧力検出器117A、117Bによる検出値とに基づき距離補正値を求めて各距離補正値を前記下型104の移行距離の目標値に加算する補正演算を実行するマイクロコンピュータ124を備える。」という構成を具備している。
(二) イ号物件の係数は、加圧力から誤差δ2、δ3、δ4の合計値を補正値として求めるための補正式の係数であるが、それぞれの係数を求めるにあたっては、加圧力を変化させて誤差の変化を観測している以上、イ号物件は、「上型と下型とを直接当接させて加圧したときの加圧力と型の移行距離とから求めた変形補正係数」の技術的範囲に属する構成を具備している。
(三) イ号物件における前記係数は、上型と下型とを直接当接させて加圧という方法ではないが、この方法と実質的に同等の方法で求められる。
すなわち、イ号物件では、δ2及びδ3の各係数を求めるに際して、加圧台を用いているが、右方法と、上型と下型とを直接当接させて加圧した場合との、加圧力と誤差との関係は同一であって、それらは実質的に同一の加圧方法である。また、イ号物件では、δ4の係数をFEM画面上での解析により求めているが、右方法は、上型が実際に機械に装着されているのと同等な拘束状態を設定しているのであるから、上型を実際に機械に装着している本件発明の方法と同等であることはいうまでもなく、そこに発生している加圧力と誤差との関係は同一である。
したがって、本件発明とイ号物件との違いは、同じものを分解して求めるか、合計して求めるかの違いでしかなく、イ号物件においては、分解された移行距離の誤差は、距離補正値と、して使用される段階では、必ず合計されるのであって、イ号物件と本件発明との間に実質的な差異は存在しない。即ち、イ号物件の実験および解析で実現しているプレスブレーキの加圧方法は、本件発明における上型と下型とを直接当接させて加圧する方法と実質的に同等であり、イ号物件は、本件特許を侵害するものである。
(四) イ号物件では、距離補正値を求めるのに、加圧力の予測値PL(2)、PR(2)を補正式に適用している。ここで「加圧力の予測値」とは、被加工板材の曲げ角度が目標値となったと仮定した場合の、実測加圧力より算出される加圧力の予測計算値のことであるから、加圧力の予測値は、実測加圧力の関数である。
したがって、イ号物件では、距離補正値を実測加圧力に基づいて求めており、構成要件Dの「被加工板材に対する加圧時の各加圧力検出手段による検出値とに基づき距離補正値を求めて」に該当する構成を有している。
(五) 以上より、イ号物件は、構成要件Dに該当する構成を有している。
(被告の主張)
1 「変形補正係数」の意義
(一) 「変形補正係数」という文言は技術用語として定着しているものではなく、特許請求の範囲の記載においても、「上型と下型とを直接当接させて加圧したときの加圧力と型の移行距離とから求めた変形補正係数」というだけで、「加圧力」と「型の移行距離」とからどのように「求める」のかは「特許請求の範囲」からははっきりしない。
(二)(1) 原告は本件特許以外に、特許第一八七七二四五号特許(以下「基本発明」という。)を有しているが、基本発明も本件発明も「上型と下型とを直接当接させて加圧したときの加圧力と型の移行距離とから求めた変形補正係数」を備えており、その内容は、本件発明の「変形補正係数」と同じであると解される。
(2) そして、基本発明の特許出願当時公知となっていた特開昭六〇-二四二二三号及び実開昭六二-四六一二〇号の内容、基本発明についての出願手続、特許異議申立に対する答弁書、特許異議決定及び基本発明の明細書の「発明が解決しようとする問題点」の記載、本件特許の出願当初の明細書の「特許請求の範囲」には「上型と下型とを直接当接させて加圧したときの加圧力と型の移行距離とから求めた変形補正係数」の構成については記載されていなかったところ、特許庁の審査官から拒絶理由通知を発せられ原告は特許請求の範囲に右構成を加えて補正を行っていること、拒絶理由通知に対する意見書及び特許異議申立に対する答弁書における各主張並びに本件特許の明細書の<実施例>及び<発明が解決しようとする問題点>の各記載からすると、
<1> 変形補正係数の技術的意義は、文字通り「上型と下型とを直接当接させて加圧したときの加圧力と型の移行距離とから変形補正係数を求める」というものであり、
<2> 「上型と下型とを直接当接させて加圧したときの加圧力と型の移行距離とから求める変形補正係数」における「型の移行距離」というのは、「往復動機構の動作量から求める上型の移行距離」自体を意味しており、
<3> 変形補正係数はプレスブレーキの曲げ加工において生じる全ての誤差を一括して求めるものであり、型の移行距離の補正値を各要因ごとにあらかじめ求めておくような場合は除かれ、
<4> 型の移行距離と加圧力とは比例するものであり、変形補正係数は比例定数として一定の値となる
ものと考えられる。
(三) 本件発明の「変形補正係数」はプレスブレーキに上型と下型が全巾にわたって取り付けられている場合に、上型と下型とを直接当接させて加圧したときの加圧力と型の移行距離とから求めるものであり、プレスブレーキの左右端で求める変形補正係数は同じ値となる。
2 「基づき」の意義
本件特許明細書の<発明の詳細な説明>の記載からすると、本件発明において「距離補正値」を「変形補正係数と加圧力の検出値とに基づき求める」というのは、「変形補正係数」と「加圧力の検出値」を掛け合わることを意味している。
3 イ号物件との対比
(一)(1) イ号物件の「上限バルブ開度特性による誤差δ2」及び「側板たわみによる誤差δ3」の各補正式の定数は、その変位量をダイヤルゲージという別の検出器で求めているのであり、往復動機構の動作量から求めているものではない。また「金型たわみによる誤差δ4」の補正式の定数は、使用される金型を用いた実測値から求められるものではなく、計算値によるものである。
したがって、イ号物件の誤差補正値を求めるための補正式の係数は、上型と下型を直接当接して加圧したときの加圧力と型の移行距離とから求められるものではない。
(2) また、イ号物件の誤差補正値の補正式の係数は、「上下テーブルのたわみによる誤差」「上限バルブ開度特性による誤差」「側板たわみによる誤差」「金型たわみによる誤差」のように誤差要因ごとに求めている。
(3) 原告は、「上型と下型とを直接当接させて加圧したときの加圧力と型の移行距離とから求めた変形補正係数」とイ号物件の補正式の係数とは、実質的に同一であると主張している。
しかし、「上限バルブ開度特性による誤差」及び「側板たわみによる誤差」の補正式の係数を、上型と下型とを直接当接させて加圧して求める場合には、その補正値には、金型のたわみによる誤差補正値が加算されているが、イ号物件のように加圧台を用いて、上限バルブ開度特性による誤差又は側板たわみによる誤差をダイヤルゲージで測定する場合には、金型のたわみによる誤差の補正値はその中に入ってこず、両者の測定方法は明らかに違うのである。
また、イ号物件の「金型たわみによる誤差」は金型がプレスブレーキの全長にわたって取り付けられている場合であっても、被加工板材の長さに逆比例するものであり、被加工板材の長さに関係のない本件発明の「変形補正係数」とは全く別物である。
以上より、本件発明の変形補正係数とイ号物件の誤差補正式の係数とでは、実質的にもその内容が異なるものである。
(4) また、イ号物件の誤差補正値は加圧力に比例するものでもない。
(5) 以上より、イ号物件は、「上型と下型とを直接当接させて加圧したときの加圧力と型の移行距離とから求めた変形補正係数」という技術的範囲に属する構成を具備していない。
(二) イ号物件の第二回曲げ加工の際の距離補正値を求めるための予測加圧力は被加工板材に対する左右端の実測加圧力だけから求められるものではなく、被加工板材の実測曲げ角度がなければ求められないものである。
三 争点三(構成要件E該当性)について
(被告の主張)
1 イ号物件は、構成要件Dの「演算手段」を具備していないから、構成要件Eの「この演算手段」という構成も具備していない。
2 また、イ号物件は、クラウニング・サブシリンダによる補正も行っているので、構成要件Eの「両側位置で移行距離の目標値に基づき各往復動機構の動作量を制御して被加工板材の全長にわたる適正な曲げ角度を得る」という構成を具備していない。
3 さらに、構成要件Eで「この演算手段が算出した両側位置で移行距離の目標値に基づき各往復動機構の動作量を制御して」というのは、変形補正係数と加圧力から求めた距離補正値を型の移行距離の目標値に加算したもので両側位置を制御するということであり、それは「プレスブレーキの左右端を目標刃間距離にしようとするもの」である。
一方、イ号物件は上下テーブルのたわみ(左右非対称)とクラウニング補正のたわみ(左右対称)とが違うので、それを補正しようとするために、左右端の刃間距離は左右で異なる値となるのであり、この点でイ号物件は、本件発明の構成要件Eを有しないといわなければならない。
4 したがって、イ号物件は、構成要件Eの構成を具備していない。
(原告の主張)
本件発明は、クラウニング・サブシリンダによる補正は技術課題としていないこと、イ号物件は構成要件Dに該当することから、イ号物件は構成要件Eの構成を具備している。
第三 争点に対する判断
一 当裁判所は、イ号物件は、少なくとも構成要件Dの「上型と下型とを直接当接させて加圧したときの加圧力と型の移行距離とから求めた変形補正係数と、被加工板材に対する加圧時の各加圧力検出手段による検出値とに基づき距離補正値を求めて」という構成を具備せず、本件特許権を侵害しないものと判断するので、以下その理由について判示する。
1(一) 証拠(甲二)によれば、本件特許の明細書<発明が解決しようとする問題点>には、以下の記載があることが認められる。
「 ところで被加工板材46に対し上型45による加圧力が作用する際、その加圧力や反力により機械本体のサイドフレームが伸びたり、上型45が撓んだりする。このため上型45の移行距離の目標値を計算により適宜に設定しても、所望の曲げ角度を得ることは困難である。
(中略)
この発明は、上記問題に着目してなされたもので、被加工板材が機械中心に対し一側へ偏った状態でセットされても、被加工板材の全長にわたり適正な曲げ角度を得ることのできるプレスブレーキを提供することを目的とする。」
以上の記載からすると、本件発明は、加圧力の作用により生じる「機械本体のサイドフレームの伸び」と「上型の撓み」を補正しようとしていることは明らかである。
したがって、本件発明の変形補正係数は、機械本体のサイドフレームの伸びと上型の撓みにより生じる誤差を補正するために用いられるものであると解される。
(二) これに対し、前記「争いのない事実等」によれば、イ号物件においても、機械本体のサイドフレームの伸びという誤差を「側板たわみによる誤差δ3」として、上型の撓みにより生じる誤差を「金型たわみによる誤差δ4」として、それぞれ一定の定数をともなった補正式を用いて補正している。したがって、この点において、イ号物件は、本件発明の比較対象となるものである。
(三) なお、本件発明を、機械本体のサイドフレームの伸びと上型の撓みによる誤差しか生じない機械に用いられることを前提としていると解すべきではない。なぜなら、仮に現実の機械がその他の誤差要因による誤差を不可分密接に補正しているとしても、技術手段の概念としては、当然切り離して考えることが可能であり、本件発明の技術思想との対比は、現実の機械に具現化された技術思想との比較であって、種々の構成を一体的に組み合わせられた装置全体として比較するものではないからである。よって、争いのない事実等によれば、イ号物件は、右誤差以外にも、「上下テーブルのたわみによる誤差δ1」及び「上限バルブの開度特性による誤差δ2」をも補正しているが、そのことによって、本件特許を侵害しなくなるものではない。
2 以上のように、変形補正係数は、機械本体のサイドフレームの伸びと上型の撓みにより生じる誤差を補正するために用いられるものであるが、特許請求の範囲には、「上型と下型とを直接当接させて加圧したとき」の「加圧力」と「型の移行距離」とから求めた「変形補正係数」とある。したがって、本件発明の技術的範囲は、変形補正係数を求めるための「加圧力」と「型の移行距離」が「上型と下型とを直接当接させて加圧したとき」のものに限定されていると解される。
3 前記「争いのない事実等」で判示したように、イ号物件においては、「側板たわみによる誤差δ3」の補正式の定数を求めるに当たり、上部テーブルに取り付けた中間板と下部テーブルとの間にセットした加圧台を、加圧力を変化させつつ加圧して、左右の往復動機構の加圧力に対する左右の側板たわみを、プレスブレーキから離れた地点に設置されたダイヤルゲージにより、計測することにより求めている。また、「金型たわみによる誤差δ4」の補正式の定数を求めるに当たり、FEM解析画面上で、一メートルの長さの上型が実際に機械に装着されているのと同等な拘束状態を設定して、上型の先端部に、下方向から加圧力を変化させつつ加圧して、上型の先端部の垂直方向のたわみをコンピュータで計算することにより求めている。
したがって、イ号物件においては、「側板たわみによる誤差δ3」及び「金型たわみによる誤差δ4」の補正式の孫数を求めるに当たり、「上型と下型とを直接当接させて加圧したとき」の「加圧力」と「型の移行距離」を用いていないから、本件発明の技術的範囲には属さない。
4 原告は、イ号物件における誤差補正式の係数は、上型と下型とを直接当接させて加圧という方法ではないが、この方法と実質的に同等の方法で求められており、本件発明とイ号物件との違いは、同じものを分解して求めるか、合計して求めるかの違いでしかなく、イ号物件においては、分解された移行距離の誤差は、距離補正値として使用される段階では、必ず合計されるのであって、イ号物件と本件発明との間に実質的な差異は存在しないから、イ号物件は、本件特許を侵害するものであると主張している。
原告の右主張は、本件発明の変形補正係数とイ号物件の各誤差の補正式の係数及び本件発明の距離補正値とイ号物件のそれとの実質的同一性をいうものであると解されるが、以下、右主張について検討する。
5(一) 前記「争いのない事実等」によれば、本件特許は、昭和六二年五月二六日に出願されたが、証拠(乙三の二の六、三の二の七)によれば、右出願当時、以下の発明又は考案が公知であったことが認められる。
(1) 特開昭六〇-二四二二三号
コンピュータを内蔵する制御装置を備えたプレスブレーキにおいて、パンチとダイの形状寸法と板状ワークの厚さと所望の折り曲げ角度など形状寸法に関する諸データから、理論的なパンチとダイの接近距離を演算して実施する工程と、前記工程の進行時にパンチとダイを駆動する駆動流体圧を検出する工程と、前記した検出値からパンチ・ダイ・プレスブレーキの構造部分・流体圧弁の抵抗・ワークの弾性的特性などによる力学的歪量を修正演算して追加接近距離を得て実施する工程とからなることを特徴とするプレスブレーキにおける折り曲げ角度制御方法
(2) 実開昭六二-四六一二〇
固定フレームと、該フレームに対し接近離反可能の可動フレームと、この可動フレームを駆動する可動フレーム駆動手段と、各種作業条件の入力データに基づいて前記可動フレームの折曲終了位置の概算値を演算する折曲終了位置概算手段と、前記可動フレームの実際加工圧力を検出する加工圧検出手段と、前記可動フレームが前記折曲終了位置概算手段で求められた概算位置より少し手前の位置に来たとき前記加工圧検出手段の検出圧を入力し前記入力データ及びこの検出圧に基づいて前記可動フレームの最終位置を精算する折曲終了位置精算手段と、を有して構成される折り曲げ加工機械。
以上の公知例では、プレスブレーキで被加工板材を所望の折り曲げ角度だけ折り曲げるために、実測加圧力の検出値を距離に変換している。したがって、右目的のために、実測加圧力の検出値を距離に変換するための係数を用いるといった技術思想自体は公知であったと認められる。
(二)(1) 証拠(乙五の一)によれば、本件特許の出願当初の特許請求の範囲には次のとおりの記載がなされていたことが認められる。
「 両側位置に設けた往復動機構により型を移行させ、この型の加圧力を被加工板材に作用させることにより、被加工板材を型の移行目標値に応じた曲げ角度だけ折り曲げるプレスブレーキであって、
前記型の被加工板材に対する加圧力を両側の往復動機構の各位置で個別に検出するための一対の加圧力検出手段と、
各加圧力検出手段による検出値に応じた距離補正値を求め、各距離補正値を前記型の移行目標値に加算して、移行目標値を両側位置で補正するための演算手段と、
この演算手段が算出した両側位置での移行目標値に基づき各往復動機構の動作距離を制御して被加工板材の全長にわたる適正な曲げ角度を得る作動制御手段とを具備して成るプレスブレーキ」
(2) 右に記載したように、本件特許の出願当初、本件特許の特許請求の範囲には、「上型と下型とを直接当接させて加圧したときの加圧力と型の移行距離とから求めた変形補正係数」という構成は全く記載されていなかった。
(三)(1) 証拠(乙五の二、五の四、五の五)によれば、本件特許の出願に対しては、平成二年七月一七日に拒絶理由通知がなされ、これに対し、原告は、同年一〇月一九日、手続補正書を提出して、特許請求の範囲に「上型と下型とを直接当接させて加圧したときの加圧力と型の移行距離とから求めた変形補正係数」という要件を付加するなどして、本件特許の特許請求の範囲を現在のものに訂正するとともに、意見書を提出し次のとおり主張したことが認められる。
「 第2の引用例(特開昭五七-一〇〇八二〇号公報)の場合、サイドフレームの外方に設けられた検出板によりプレスブレーキ本体の変位量を検出して加圧力の演算を行うもので、前記変位量には誤差要因の一部のみが反映されるだけである。
これに対して本願発明の場合、往復動機構の動作量より型の移行距離を検出して、その検出値を変形補正係数の演算に用いるから、加圧力により生ずる全ての誤差要因による曲げ角度誤差を自動補正でき、常に所望の曲げ角度が確実に得られるのである。」
(2) そして、右(1)にいう「往復動機構の動作量より型の移行距離を検出して、その検出値を変形補正係数の演算に用いる」とは、本件特許請求の範囲のうち「上型と下型とを直接当接させて加圧したときの加圧力と型の移行距離とから求めた変形補正係数」に対応する記載であると解される。
(四) 証拠(乙五の六、五の七、五の一〇)によれば、本件特許は、平成三年四月三〇日、出願公告の決定がなされたが、同年一一月一五日、特許異議の申立てがなされ、原告は、平成四年八月一二日、特許異議答弁書を提出し、以下のとおり主張した。
「 甲第二号証(特開昭五四-一二九五七三号公報)には、ラムのストローク長は油圧プレスブレーキの各部に弾性域内のわずかなたわみを生じる範囲でワークを加工せずに、上金型と下金型とが互いに完全に係合した垂直方向の点を原点として算出することが記載されているが、このような方法では本願発明における変形補正係数を算出することはできない。
本願発明の変形補正係数を求めるには、上型と下型とを直接当接させて加圧したときの加圧力と型の移行距離とが必要であって、単に加圧状態での機械系のある部分の位置を計測しても変形補正係数は算出し得ないのである。
(中略)
しかしながらこの甲第二号証には、上金型と下金型とが互いに完全に係合した垂直方向の点を原点として算出することは記載されているが、上金型と下金型との直接当接触させて加圧したときの加圧力と型の移行距離とから原点位置を設定することなどどこにも記載されておらず、申立人の主張は失当である。
上型と下型とを直接当接させて加圧したときの型の移行距離は機械各部や型の変形量を意味しており、従って、この機械各部や型の変形量と上型の被加工板材に対する加圧力の大きさとの比例関係を変形補正係数として求めることにより、両側での任意の加圧力に対し、それぞれの加圧力の大きさに応じた距離補正値が求まるのであって、この甲第二号証のような原点補正の方法ではそのような作用効果はない。」
(五) 証拠(乙五の一一)によれば、前記特許異議申立に対し、特許庁は、平成六年四月一九日、次のような理由を付して特許異議の申立ては理由がないとの決定をしたことが認められる(注は、当裁判所が付加)。
「 甲第二号証の刊行物には、・・・・(中略)・・・・上型と下型とを直接当接させて加圧したときの加圧力と型の移行距離とから求めた変形補正係数を用いて原点位置を設定する点については何ら記載乃至示唆されていない。
してみると、甲各号証の刊行物には、本願発明の構成要件である「上型と下型とを直接当接させて加圧したときの加圧力と型の移行距離とから求めた変形補正係数と、被加工板材に対する加圧時の各加圧力検出手段による検出値とに基づき距離補正値を求めて各距離補正値を前記型の移行距離の目標値に加算する補正演算とを実行する演算手段」が示されているものとは認められず、さらに上記構成要件を具備することにより得られる「たとえ被加工板材が機械中心に対し一側に偏って位置しても、被加工板材の全長にわたり適切(注:正確には「適正」)な曲げ角度を得ることができる。」という明細書記載の作用効果は上記甲各号証から容易に予測できる効果であるとも認められない。」
(六) 証拠(甲二)によれば、本件特許の明細書<作用>欄には、以下の記載があることが認められる(注は、当裁判所が付加)。
「 作業に先立ち、上型と下型とを直接当接させて加圧したときの加圧力と型の移行距離とから変形補正係数を求めた後、被加工板材をセットし、被加工板材に向けて型を移行させて曲げ加工を開始する。
(中略)この場合に被加工板材が機械中心に対して一側へ偏って位置していると、両側の往復動機構による加圧力に差異が生じ、その大きさに応じて機械の変形量も両側位置で相違する。この両側位置での加圧力は加圧力検出手段により個別に検出され、演算手段はそれぞれ検出値と前記変形補正値(注:正確には「変形補正係数」)とに基づき距離補正値を求めて各距離補正値を前記型の移行距離の目標値に加算し、移行距離の目標値を両側位置で補正する。(中略)
従ってこの発明によれば、被加工板材が機械中心に対し一側へ偏ってセットされても、被加工板材の全長にわたり適正な曲げ角度を得ることができる。」
6 以上によると、本件特許の出願当時、プレスブレーキの分野において、曲げ加工の際生じる誤差を補正するために、実測加圧力の検出値を距離に変換する何らかの係数を用いるといった技術思想自体は公知であったところ、本件発明は、「上型と下型とを直接当接させて加圧したときの加圧力と型の移行距離とから求めた変形補正係数」を用いて、機械の両側位置でそれぞれ測定した加圧力から、それぞれの位置における距離補正値を求め、それによって移行距離の目標値を補正することにより、「被加工板材が機械中心に対して一側へ偏って位置しているとしても、被加工板材の全長にわたり適正な曲げ角度を得ることができる。」という作用を実現したものであるといえる。
このように、原告は、自ら、変形補正係数を求める方法を特定した上、その方法を採用することによって、右作用を実現したのであるから、本件特許発明の範囲は、原告が特定した右方法により変形補正係数を求め、それに基づき距離補正値を求める場合に限られることは明らかである。他方、イ号物件では、実験及び解析で誤差補正式の係数を求め、それに基づき距離補正値を求めている。
よって、本件発明とイ号物件との距離補正値を求めるための係数と距離補正値とが、実質的に同等であるとしても、イ号物件では、上型と下型とを直接当接させて加圧したときの加圧力と型の移行距離とから求めた変形補正係数を用いていない以上、本件特許を侵害することはない。
7 さらに、本件発明の距離補正値とイ号物件のそれとでは、実質的にも異なるものであって、本件発明の変形補正係数とイ号物件の補正式の係数が実質的に同一の方法によって求められているということもできない。
(一) 「争いのない事実等」で判示したとおり、イ号物件においては、金型たわみによる誤差δ4の補正式の定数Kは、常に一メートルの長さの上型が実際に機械に装着されているのと同等な拘束状態を設定して求められ、イ号物件で金型たわみによる誤差δ4は、次の式により求められている。
δ4=K×PO/L(Lは被加工板材の長さ)
被告が、右のような補正を行うのは、被加工板材が長くなれば金型にかかる反力の分布が広がり、左右の加圧力が同じでも反力の単位長さ当たりの荷重は小さくなり金型のたわみも小さくなるが、被加工板材が短くなれば、金型にかかる反力が集中するために左右の加圧力が同じでも反力の分布荷重は大きくなり、金型たわみも大きくなるからである。すなわち、イ号物件においては、金型たわみによる誤差δ4を求めるに際して、あらかじめ一メートルの金型を装着した場合の加圧力と金型のたわみとの関係を求めておいて、それを被加工板材の長さで除することにより、曲げ加工の際、被加工板材に当接する金型部分にかかる反力、すなわち右金型部分が実際にたわむ量を求めようとしているのである。
(二) 他方、本件特許の特許請求の範囲によれば、変形補正係数は、上型と下型を直接当接させたときの加圧力と型の移行距離とから求めるとあり、ここにいう上型と下型とは、実際に機械に装着する上型と下型を意味すると解される。よって、特許請求の範囲の記載からは、本件発明の変形補正係数を求める過程において、曲げ加工の際に被加工板材に当接する金型部分のたわみとして「金型たわみ」が考慮されてはいない。
また、証拠(甲二)によると、本件特許の明細書の<実施例>には、金型が機械の全巾にわたって取り付けられ、被加工板材の長さがそれよりも短い場合が挙げられているにもかかわらず、距離補正値を求めるに際して被加工板材の長さが全く考慮されておらず、その他明細書の記載のどこにも、距離補正値を求めるに際して被加工板材に当接する金型部分のたわみを考慮する記載はみられないことからすると、距離補正値を求めるにあたり、被加工板材に当接する金型部分のたわみとして、「金型たわみ」を考慮することは、本件発明の内容とはなっていないものと解される。
(三) 右のとおり、イ号物件においては、距離補正値に被加工板材に当接する金型部分のたわみを反映させるという技術思想の下、金型たわみによる誤差δ4の補正式の係数が求められ、距離補正値が求められているのに対し、本件発明にはそのような技術は含まれないから、実質的内容も異なるのである。
8 よって、原告の「イ号物件における誤差補正式の係数は、上型と下型とを直接当接させて加圧という方法ではないが、この方法と実質的に同等の方法で求められており、本件発明とイ号物件との違いは、同じものを分解して求めるか、合計して求めるかの違いでしかなく、イ号物件においては、分解された移行距離の誤差は、距離補正値として使用される段階では、必ず合計されるのであって、イ号物件と本件発明との間に実質的な差異は存在しないから、イ号物件は、本件特許を侵害するものである」との主張は、採用することができない。
9 したがって、イ号物件は、「上型と下型とを直接当接させて加圧したときの加圧力と型の移行距離とから求めた変形補正係数と、被加工板材に対する加圧時の各加圧力検出手段による検出値とに基づき距離補正値を求めて」という構成の技術的範囲に属する構成を具備しておらず、また右構成と実質的に同一とも配されないから、その他の争点について検討するまでもなく、イ号物件は、本件特許権を侵害していないものと解される。
二 以上より、原告の本件請求は、いずれも理由がないので、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 野田武明 裁判官 安永武央 裁判官森義之は、転補につき署名押印することができない。 裁判長裁判官 野田武明)
物件目録
1 全体構成
(一) イ号物件は、両側位置に設けられた一対の往復動機構108A、108Bにより下型104を移行させ、上型106と下型104との間で加圧力を作用させることにより、被加工板材Wを下型104の移行距離の目標値に応じた曲げ角度θ0だけ折り曲げるプレスブレーキである。
(二) 前記下型104の移行距離の目標値は、上限バルブの開度特性による誤差δ2、側板たわみによる誤差δ3、金型たわみによる誤差δ4、を考慮して設定される。
具体的には、所望の曲げ角度θ0に曲げる際の条件により算出した各往復動機構108A、108Bの演算加圧力POL、PORを用いて各誤差δ2-δ4の合計値を補正値⊿d1L、⊿d1Rとして算出し、この補正値⊿d1L、⊿d1Rを基準値DO(機械たわみを考えない幾何学的に決まる移行距離)に加えた距離d1L、d1Rを移行距離の目標値とする。
d1L=DO+⊿d1L
d1R=DO+⊿d1R
(三) 下部テーブル103の中央付近両側には、クラウニング・サブシリンダ機構124A、124Bが一個ずつ設けてあり、これらクラウニング・サブシリンダ機構124A、124Bで上下テーブルのたわみ誤差を補正するようにする。
2 一対の距離検出器109A、109B
イ号物件は、各往復動機構108A、108Bに連繋されて各往復動機構108Aの動作量により両側位置での下型104の移行距離を個別に検出する一対の距離検出器109A、109Bを備えている。
3 一対の加圧力検出器117A、117B
イ号物件は、型の被加工板材Wに対する加圧力を両側の往復動機構108A、108Bの各位置で個別に検出する一対の加圧力検出器117A、117Bを備えている。
4 マイクロコンピュータ124
(一) イ号物件は、以下の(二)-(七)で詳述するように、予め求めた誤差の補正式の係数と、被加工板材Wに対する加圧時の各加圧力検出器117A、117Bによる検出値とに基づき距離補正値を求めて各距離補正値を前記下型104の移行距離の目標値に加算する補正演算を実行するマイクロコンピュータ124を備えている。
(二) 前記係数は、上限バルブの開度特性による誤差δ2、側板たわみによる誤差δ3、金型たわみによる誤差δ4の合計値を距離補正値⊿dとして求めるための、次の補正式の係数である。
⊿dL=δ2L+δ3L+δ4
⊿dR=δ2R+δ3R+δ4
前記の係数は、プレスブレーキの開発時に実験およびFEM解析にて求め、データメモリ116に記憶させておく。
(三) 上限バルブの開度特性による誤差δ2についての補正式は、上部テーブル102と下部テーブル103との間で加圧力を作用させたときの上限バルブの開度による誤差を、ダイヤルゲージを用いて計測することにより、加圧力と上限バルブの開度特性による誤差との関係を求めて数式化したものである。
(四) 側板たわみによる誤差δ3についての補正式は、上部テーブル102と下部テーブル103との間で加圧力を作用させたときの側板たわみをダイヤルゲージを用いて計測することにより、加圧力と側板たわみとの関係を求めて数式化したものである。
(五) 金型たわみによる誤差δ4についての補正式は、FEM解析画面上で、上型が実際に機械に装着されているのと同等な拘束状態を設定して、上型の先端部に加圧力を作用させたときの上型の先端部の垂直方向のたわみをコンピュータで計算することにより、加圧力と金型たわみとの関係を求めて数式化したものである。
(六) 第一回目の曲げ加工では、下型104を前記移行距離の目標値d1L、d1Rに達するまで移行させることにより被加工板材Wを曲げ加工し、左右両側の加圧力PL(1)、PR(1)および左端、中央、右端の曲げ角度θL、θc、θRを計測する。
所望の曲げ角度が得られないとき、前記の実測加圧力PL(1)、PR(1)に基づいて加圧力の予測値PL(2)、PR(2)を求め、この加圧力の予測値PL(2)、PR(2)を前記補正式に適用して、両端位置での下型104の移行距離の補正値(距離補正値)⊿d2L、⊿d2Rを求める。
なお、実測加圧力PL(1)、PR(1)から加圧力の予測値PL(2)、PR(2)を求めるには、まず被加工板材Wが曲げ角度θL、θc、θRに曲げられる場合の演算加圧力P1L、Pc、P1Rを算出する。
次に、前記左端、右端の曲げ角度θL、θRに対して、演算加圧力がP1L、P1R、実測加圧力がPL(1)、PR(1)であるから、目標とする曲げ角度θOに対して、演算加圧力がPOL、PORであるとき、これに対応する加圧力、すなわち加圧力の予測値PL(2)PR(2)、は、次の比例計算で求められる。
PL(2)=PL(1)×POL/P1L
PR(2)=PR(1)×POR/P1R
(七) 前記距離補正値⊿d2L、⊿d2Rから第一回目の曲げ加工に際して算出した補正値⊿d1L、⊿d1Rを差し引いた量(⊿d2L-⊿d1L)(⊿d2R-⊿d1R)を、当初の移行距離の目標値d1L、d1Rに加算する左記の補正演算を実行して、両側位置での移行距離の目標値d2L、d2Rを求める。
d2L=d1L+(⊿d2L-⊿d1L)
d2R=d1R+(⊿d2R-⊿d1R)
5 制御機構118A、118B
(一) イ号物件は、マイクロコンピュータ124算出した両側位置での移行距離の目標値に基づき各往復動機構108A、108Bの動作量を制御して被加工板材Wの全長にわたる適正な曲げ角度を得る制御機構118A、118Bを備えている。
(二) イ号物件では、第一回目および第二回目の曲げ加工において、クラウニング・サブシリンダ機構124A、124Bに、左右両側のメインの実測加圧力に一定の割合を乗じた加圧力を加えて、下型104の中央付近を上昇させ、型の全巾にわたって上下の型間距離が同一になるように曲げ加工を行う。
第一回目の曲げ加工におけるクラウニング補正で、上下テーブルのたわみ量δ1に相当する分が適正に補正できなかった場合は、第二回目の曲げ加工時に、クラウニング率を変更したクラウニング補正により補正する。
被告主張目録
被告が製造販売しているイ号物件の構成は次のとおりである。
A' プレスブレーキ
イ号物件はプレスブレーキの両側位置に設けられた一対の往復動機構108A、108Bにより下型104を移行させるとともに、下部テーブル103の中央付近両側に設けられたクラウニング・サブシリンダ機構124A、124Bで下部テーブルをたわませることにより上型106と下型104との間で加圧力(クラウニング圧を含む)を作用させることによって被加工板材Wを下型104の移行距離とクラウニング・サブシリンダ機構のクラウニング圧に応じた曲げ角度だけ折り曲げるプレスブレーキである。
B' 距離検出器
イ号物件は左右の各往復動機構108A、108Bに連繋されて、各往復動機構108A、108Bの動作量によりプレスブレキの両側位置での下型104の移行距離を個別に検出する一対の距離検出器109A、109Bを有している。
C' 加圧力検出器
イ号物件は上型と下型の間で被加工板材Wに作用する加圧力を左右の往復動機構108A、108Bの各位置で個別に検出する一対の加圧力検出器117A、117Bを有している。
D' マイクロコンピュータ
1 マイクロコンピュータ124は、CPU114、プログラムメモリ115、データメモリ116を有している。
CPU114は、プログラムメモリ115に格納されたプログラムに従ってデータメモリ116に対するデータの読み書きを行い、各制御機構118A、118B、加圧力検出器117A、117B、距離検出器109A、109Bに対する入出力を制御して、所定の演算及び処理を実行する。
2 第一回曲げ加工に必要な「誤差の補正式」
イ号物件で被加工板材を曲げ加工する場合に生じる誤差(上下テーブルのたわみによる誤差δ1、上限バルブの開度特性による誤差δ2、側板たわみによる誤差δ3、金型たわみによる誤差δ4)が生じるのでその誤差を補正するための補正式を予め求めておき、それらをプログラムメモリ115及びデータメモリ116に記憶させている。
(一) 上下テーブルのたわみによる誤差δ1の補正式
「上下テーブルのたわみによる誤差」はクラウニング・サブシリンダに加圧力(クラウニング圧Pc)を加えて下部テーブル中央を上方にたわませること(これをクラウニングと呼ぶ)により上下テーブルのたわみ量δ1とクラウニングによる下部テーブルのたわみ量δ1おとが同じになるようにして補正する。
なお、そのクラウニング圧Pcは、左右端の油圧シリンダの加圧力(PL、PR)の合計値Pに一定の割合(これをクラウニング率といいCC%で表す。)を乗じたものである。
Pc=P×CC%…(4)
第一回曲げ加工の適正クラウニング率CC(1)%は、被加工板材の長さLによって決まる。
CC(1)%=a×L2+b×L+c(a、b、cは定数)…(5)
(二) 上限バルブの開度特性による誤差δ2の補正式
「上限バルブの開度特性による誤差δ2」は、プレスブレーキの左右端でそれぞれ生じるものであり、これらの誤差δ2L、δ2Rは、プレスブレーキの左右端の油圧シリンダの加圧力PL、PRによって決まるものであって、次のとおりである。
δ2L=gL×PL2+hL×PL+iL(gL、hL、iLは定数)…(6-1)
δ2R=gR×PR2+hR×PR+iR(gR、hR、iRは定数)
上限バルブの開度特性による誤差δ2を生じさせる上限バルブの開度は、左右端の油圧シリンダの加圧力PL、PRによって変化するので、加圧力毎に上限バルブの開度による誤差δ2を上限バルブのスプールの変位としてダイヤルゲージで実測することにより、「加圧力」と「上限バルブの開度特性による誤差δ2」との関係が求められる。これを数式化してδ2の補正式とする。
(三) 側板たわみによる誤差δ3の補正式
「側板たわみによる誤差δ3」はプレスブレーキの左右端の油圧シリンダの加圧力PL、PRによって決まり、次のとおりである。
δ3L=jL×PL(jLは定数)…(7-1)
δ3R=jR×PR(jRは定数)…(7-2)
側板たわみによる誤差δ3の補正式の求め方は、プレスブレーキから離れて、地面に固定した支柱を左右に設け、その先端にダイヤルゲージ本体を固定しておき、中間板と下部テーブルの間に加圧台を置き、プレスブレーキの左右端の油圧シリンダを加圧して下部テーブルを上昇させる。加圧台が下部テーブルと上部テーブルに取り付けられた中間板の間で押圧されると油圧シリンダの加圧力により左右両側の側板が変形する。その際の左右の油圧シリンダの加圧力PL、PRに対するダイヤルゲージで計測された左右の側板たわみδ3L、δ3Rを求める。次に、加圧力PL、PRを変化させて加圧力と側板たわみδ3L、δ3Rの関係を順次求める。
(四) 金型たわみによる誤差δ4の補正式
この「金型たわみによる誤差δ4」は油圧シリンダの加圧力P(プレスブレーキ左右端の加圧力PL、PRの含計値)と被加工板材の長さLの式となっている。
δ4=k×P\L(ただし、kは定数、P=PL+PR)
金型たわみによる誤差δ4の補正式の求め方は、単位長さ(一メートル)の金型に加圧力を均等に加えたときのたわみ量をFEM(有限要素法)解析によって計算で求め、それを基に補正式を作成する。すなわちFEM解析画面上で、上型が実際に機械に装着されているのと同等な拘束状態を設定(A、B面を画面上で固定)して上型先端に下方向から荷重を与え、その時の上型先端部の垂直方向の変位量(δ4)をコンピュータで計算する。与える荷重をその金型の許容応力内で数種類変化させ、それぞれの変位量を求める。
3 第二回以降の曲げ加工に必要な「誤差の補正式」
(一) クラウニング再補正によるクラウニング率CC(2)%の式
第一回の曲げ加工による被加工板材の左端、中央、右端の曲げ角度がθL、θc、θRが金型の長手方向に対して一直線上に並ぶように補正する為に、下部テーブルの長手方向のたわみ量δ1(1)-δ1(11)を求め、これらの式と第一回曲げ加工による被加工板材の左端、中央、右端の曲げ角度等から再クラウニング率CC(2)%の式を求める。
δ1(1)=e1×Pc(e1は定数)…(10-1)
δ1(2)=e2×Pc(e2は定数)…(10-2)
δ1(11)=e11×Pc(e11は定数)…(10-11)
CC(2)%=f(θL、θc、θR、δ1、CC(1)%、V、PL、PR)
(二) 被加工板材の左右端の曲げ角度の補正式
前記のクラウニング再補正により被加工板材の曲げ角度が金型の長手方向に対して一直線上に並ぶ場合にその曲げ角度θL′、θc′、θR′を目標曲げ角度θOに修正するための型の左右端での補正式を求める。
⊿dL=fL(θO、θL’、θc’、θR’、L、BP、SL、金型条件、材料条件)…(12-1)
⊿dR=fR(θO、θR’、θc’、θR’、L、BP、SL、金型条件、材料条件)…(12-2)
(三) 第二回曲げ加工の予測加圧力
(1) 被加工板材が第一回の曲げ加工により左端、中央、右端の曲げ角度がθL、θc、θRとなったときに被加工板材が目標曲げ角度θOに曲げられる場合の予測加圧力を求める。
(2) PL(2)=PL(1)×POL\P1L…(13-1)
PR(2)=PR(1)×POR\P1R…(13-2)
PL(1)、PR(1)は第一回曲げ加工の時の実測加圧力、POL、PORは被加工板材がθOに曲げられるときの計算加圧力、P1L、P1Rは第一回曲げ加工の際の曲げ角度に曲げられる場合の計算加圧力。
4 イ号物件の具体的補正方法
(一) イ号物件の第一回曲げ加工について
(1) イ号物件の作業者がイ号物件に入力する数値
イ号物件で被加工板材を一回目に曲げ加工する場合に、曲げ加工を行う作業者がイ号物件に「被加工板材の長さL」、「被加工板材の板厚T」、「被加工板材の置かれている位置BP」、「被加工板材の目標曲げ角度θO」、「金型の種類」等を入力すると被加工板材を曲げ加工するのに必要な加工データが次に述べるように自動的に計算されて、セットされる。
(2) 被加工板材を目標曲げ角度θOに曲げるための目標刃間距離eOと、その際予測される計算加圧力POR、POLを算出する。
(イ) クラウニング補正
制御装置に指令を出すと、「曲げ加工の進行に応じて変化する左右端の油圧シリンダの加圧力の合計値P」と、イ号物件のプログラムメモリとデータメモリに記憶されている「適正クラウニング率CC(1)%の式」とによりクラウニング圧Pcが算出され、そのクラウニング圧Pcがクラウニング・サブシリンダに加えられてクラウニング補正が行われる。
CC(1)%=a×L2+b×L+c…(5)
Pc=P×CC(1)%…(4)
Pは左右端の実測加圧力PL、PRの合計値を表わす。
(ロ) 前記計算加圧力POL、PORに基づいて、イ号物件のプログラムメモリ、データメモリに記憶されている各誤差の補正式より誤差の補正値を求める。
<1>「上限バルブの開度特性による誤差δ2」
δ2L=gL×POL2+hL×POL+iL…(6-1)
δ2R=gR×POR2+hR×POR+iR…(6-2)
<2>「側板たわみによる誤差δ3」
δ3L=jL×POL…(7-1)
δ3R=jR×POL…(7-2)
<3>「金型たわみによる誤差δ4」
δ4=k×PO\L…(8)
を求め、
<4>これらの合計値である左右端の型の移行距離の誤差分
⊿dL=δ2L+δ3L+δ4…(9-1)
⊿dR=δ2R+δ3R+δ4…(9-2)
を求めて左右端の刃間距離の目標値を補正する。
(ハ) クラウニング補正と型の左右端の補正の方法
「目標刃間距離eO」(幾何学的に求められた刃間距離)に、ここで求めた補正値⊿dL、⊿dRだけ補正するのと並行して、クラウニング.サブシリンダにクラウニング圧Pcを加えて型の中央の刃間距離が左右端の刃間距離と同一になるようにしながら、被加工板材を所望の曲げ角度θOになるように曲げ加工する。
(二) イ号物件の第二回曲げ加工について
(1) 第一回の曲げ加工により被加工板材の左端、中央、右端の曲げ角度(θL、θc、θR)が目標曲げ角度θOに達した場合には、曲げ加工は終了する。
(2) 第一回の曲げ加工により被加工板材の左端、中央、右端の曲げ角度(θL、θc、θR)が目標曲げ角度θOに達しない場合には次の再補正を行う。
(イ) 第二回の曲げ加工
第一回の曲げ加工で被加工板材の左端、中央、右端の曲げ角度がθL、θc、θRとなった場合にこの曲げ角度を目標曲げ角度θOに曲げるために第二回の曲げ加工を行うのである。そのために被加工板材のセットされている位置での刃間距離(左右端の刃間距離でない)が目標刃間距離になるように補正を行う。
(ロ) 第二回の曲げ加工で入力する数値
被加工板材を二回目以降曲げ加工する場合に、作業者がイ号物件に第一回曲げ加工による被加工板材の左端、中央、右端の曲げ角度(θL、θc、θR)を実測して入力すると、被加工板材を曲げ加工するのに必要な加工データが次に述べるように自動的に計算されて、セットされる。
(ハ) 被加工板材の左端、中央、右端の曲げ角度(θL、θc、θR)が目標曲げ角度に達しなかった場合には、クラウニング率をCC(2)%に変えて、被加工板材の左端、中央、右端の曲げ角度(θL′、θc′、θR′)が金型の長手方向に沿って、一直線状(一直線状というのは前記角度の数値、θL′、θc′、θR′をグラフで表した場合にこの三点が一直線状を示すことを表現したものである)に並ぶように再補正する。そのために前記
CC(2)%=f(θL、θc、θR、δ1、CC(1)%、V、PL、PR)…(11)
の補正式を用いる。
(ニ) クラウニング再補正によって金型の長手方向に沿って一直線上に並んだ被加工板材の左端、中央、右端の曲げ角度(θL′、θc′、θR′)をいずれも目標値θOになるように、型の左右端でどれだけ補正すればよいかを求めて、左右端の刃間距離を補正する。
そのために
⊿dL=fL(θO、θL’、θc’、θR’、L、BP、SL、金型条件、材質条件)…(12-1)
⊿dR=fR(θO、θL’、θc’、θR’、L、BP、SL、金型条件、材質条件)…(12-2)
の補正式を用いる。
(ホ) 第一回曲げ加工において被加工板材の左端、中央、右端がθL、θc、θRに曲げられた際の実測加圧力P(1)により<1>被加工板材が目標曲げ角度θOになるときの予測加圧力P(2)を求め、<2>それをもとにたわみによる誤差δ2-δ4を求めて、その誤差分だけ補正する。
第二回の曲げ加工は、前記(ロ)(ハ)(ニ)の各補正を同時に行う。
(三) 第二回の曲げ加工により被加工板材の左端、中央、右端の曲げ角度が目標曲げ角度θOに達した場合には補正は終了するが、第二回の曲げ加工により被加工板材の左端、中央、右端の曲げ角度が目標曲げ角度θOに達しない場含には前記2(二)と同様の再補正を行う。
E' 各油圧シリンダ機構108A、108Bは、個別制御機構118A、118Bにより動作が制御される。各制御機構118A、118Bは、交流サーボモータ120、ボールネジ機構121、ドグ122及びドグ122によって作動される上限バルブ125により構成される。
クラウニング・サブシリンダ機構124A,124Bは,油圧シリンダ108A、108Bとは別の油圧制御機構により動作が制御される。
F' これらを具備しているプレスブレーキ。
図面1
<省略>
図面2
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図面3
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図面4
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図面5
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